2012年3月20日火曜日

【二次創作】バイオハザード:レクイエム・フォー・タイラント -Resident Evil : The Last One-



2000年12月31日 ニューヨーク

エンド・オブ・センチュリー・パレードの歓声の中に、かき消された女の悲鳴があった。

「やめて!私はもうアンブレラと手を切ったのよ!」

メインストリートの裏手からさらに入り込んだ改築中の雑居ビルの屋上で、女は分厚い緑のロングコートを羽織った大男に首を掴まれていた。大男は左手一本で屋上の防水塗料の盛られて間もないベタベタとした床から女の体を浮かせていた。
この大男はスキンヘッドに石像のような灰色の肌をもち、瞳のない淀んだ白い目を女に向けている。
大男のそばには、目出しの青い頭巾を被った黒いスーツ姿の小柄な人影があった。

「切る、か」

この一声の後に、大男は右腕で女の左の手首を掴み、すぐさま左腕を女の左肩へと移した。
大男は、華奢のな女の左腕を雑巾を絞るようにねじり始めた。
力任せの無造作に。しかし、ゆっくりと。
ミリミリ、バキバキ、ぶちぶち、と等間隔で皮が、骨が、筋繊維が、神経がねじ切れず腕の組織に絡み合ったまま、完全に生きたままの状態を保って腕全体が螺旋を描けど歪になり爆ぜていった。

腕じゅうから溢れでた激痛が彼女の全身を支配した、この時、激痛だけが彼女の世界の全てとなっていた。華奢な体から発せられる獣の呪いを込めるような断末魔に似た悲鳴も、遠い遠い彼女の世界には届かない。

ちょうど、最初に外れた肘関節が裂けると、大量の血液がはち切れて女の着ていた白のダウンジャケットを内側から赤く染めていった。
溢れでた血は、ジャケットを表まで染める前に、袖の内側から、ちょうど腋のあたりから溢れ出ると、床の乾ききってない防水塗料と混ざっていった。

グレーの塗料に赤い血が滲む床、そこへと覆面の人影が寄ってきた。

「切るとは、関心できんな。肉を潰し骨を砕いて末端神経にアテンションせぬば痛みには遠い。まして末端神経を切り落とすとは。貴様らは痛みを避けすぎている」

覆面の人影はバタフライナイフを振り出すと、ダウンジャケットとセーターとシャツの左の袖を、大男が握ったままの状態で器用にも切り裂き、滅茶苦茶にされた女の腕を剥き出しにした。
自分の腕のグロテスク極まりない有様をみて女は悲鳴で潰した自分の声で「いやだ、いやだ」とわめきちらす。

白人女性の腕は既に赤色と茶色と紫色の混沌とした世界に侵略しつくされていた。否、侵略すら生ぬるい蹂躙という言葉がふさわしい光景(ありさま)だった。
大男に強く握られた、手首から指先までが陶磁のような美しい白い肌を保っていた。

大男は女の腕に潰れていない場所が無いことを確認するように眺めた後、女の砕けた肩を掴んでいた左手を、女の左足へと移し、右手を離して女を逆さ吊りに持ち上げた。

「た、助けて!助け……て!」

一連の顛末で出し尽くされた悲鳴も、このか細い壊れた声も100年祭の乱痴気騒ぎの歓声の中では霞んで消えていた。

「助けて……そう、これは救済だ。痛みを忘れたお前らは、苦痛の中で死ぬことが幸い」

大男は女の体をムチのように振り回し床に叩きつけた。すぐには死なないように加減して。大男の右に、左に、何度となく女性の体をムチのように叩きつけた。
やがて全身の骨が砕け、遂には頭蓋骨が陥没した。だが彼女には息があった。大男は女の体の同じ箇所をなるべく打ち付けないように工夫していた為である。全身に痛みをしかし、一点だけ例外となっていた箇所があった。
横たわる彼女をムチのように振るおうとした時、彼女の体が膝から抜け落ちた。
大男は、空振りした女の左足を床に捨てると、カタワになった女の髪の毛を掴み上げる。右の目玉がぶら下がり、左の目玉は既にどこかに飛んで無くなっていた彼女が、多分次の一撃でもう動かないと大男は悟る。
すると大男は脇道に見える改築作業時の廃棄物を捨てるバケットへと、まるで壊れたおもちゃを捨てるように虫の息となった女を屋上から放り投げた。

朦朧する意思故に気絶する頃すら許されず落下した彼女は、バケットの中でそそり立っていた古い下水管に下腹部を貫かれて遂に死を許された。

巨漢が獲物の息の根を止めるて間もなく上空からヘリコプターが現れると、大男と覆面の人の立つ屋上に向けて縄梯子が下ろされた。

二人がてきぱきと慣れた身のこなしで揺れる縄梯子を登ると、そそくさとヘリは惨殺現場から離れていった。

ヘリコプターの後部座席で、覆面から覗く瞳と大男の白い目が、数十秒後に世界が変わる信じている大衆に憎悪の炎を注いでいた。

間もなく打ち上げられた花火からは「Welcome to 21st Century」の文字。街の灯りで照らされてる夜空の上でより一層きらびやかに花火は輝いた。

街から離れていくヘリコプターの中は花火の光により一層、影が強くなった。その影の中から、暗黒の決意が放たれた。

「21世紀から人間どもは痛みを思い出すことができる。俺と、俺に付き従う痛みを思い出そうと、牙を研ぎなおした獣ども……“エンパイアーズ”によって」