2010年6月26日土曜日

アウトレイジ

@名作

これまでの北野武監督の作品は、自身のナルシズムとニヒリズムを徹底的に貫いてきた。ナルシズムという表現をしたら妙な話だが、彼の本業は芸人(英語で言うコメディアン)である。徹底的に自分自身を研究し、追求し、発狂しなければなれない、笑とは名ばかりの修羅のみちなのである。
これまで、自分の体を張って"表現"を行って来て、自分主体でない物を考えるほうが難しいに違いない。だから恥ずかしがらず、「どうだ?カメラ写りはいいだろ?」と堂々と笑顔で答えなきゃダメな訳。

そうしたナルシズムとニヒリズムが先鋭化し、且つ、旧体化したヤクザ映画を否定したのが最高傑作である『ソナチネ』である。

そして、ナルシズムとニヒリズムをより多角化させ挑んだのが、かつて否定したヤクザ映画の潮流に乗った『アウトレイジ』、最高傑作その2である。

まず、北野武が『ソナチネ』で否定したのは、ショーモないTVドラマ並にVシネが量産された時期のヤクザ映画であって、ヤクザ映画そのものの否定ではない。そもそも彼は『仁義なき戦い』のファンを公言している。氏のアイデアが盛り込まれたファミコンゲーム『たけしの挑戦状』の劇中劇に『やくざ対やくざ』という「つまんねーえいが」があり、この頃から既にやくざ映画の先行きの暗さを見据えていたとしたらその先見性に驚かされる。

また、深作欣二が任侠映画を脱して以来、ヤクザ映画は日本固有の映画のジャンルであり、ビデオオリジナル作品でありながら現在も量産されている。このビデオ映画専門のオタクが存在するぐらいだ。多くは凡庸かそれ以下だが、確実に見ごたえある作品や名作も存在する(例、『新・仁義の墓場』、見ごたえ"だけ"なら『修羅のみち』)

『アウトレイジ』は北野武監督によるジャンル・ヤクザ映画であり、このジャンルでも面白い映画は撮れることを再認識させてくれる。

"俳優(本業:お笑い芸人)"ビートたけし演じる、大友は末端組織の組長で、暴力だけでヤクザ稼業で飯を食ってきた凶暴な老人だ。カッターナイフで指を詰めようとするヤクザを見てニヤニヤ笑い、挙句、カッターを取り上げてそいつの顔面をメッタ切りにする強烈なサディストだ。ビートたけしが演じてきたヤクザの中でも完全に異質の存在である。デビュー作『その男、凶暴につき』以来の暴力的な人間だ。

従来作では、周囲のヤクザが、落ち目に入って一廉の人物であるような姿を見せ、たけしもその内の一人であるが、狂気を内包させて描かれる。その様は、暴力的というよりは静かなトリックスター的な存在だった。

本作は上記の通り、ニヒリズムの多角化を見せており、終盤で化けるオールマイティーなトリックスターは存在せず、様々な種類の極悪人どもが内部抗争で暗躍をする事となる。

その極悪人どものキャスティングに関しては完璧である。
此処には列挙できないが、名だたる俳優全員が名演を披露する。

序盤こそ、Vシネと大して変わりないストーリーラインが提示されるが、徐々抗争は雪だるま式に巨大化していき、誰もが映画内で描かれる抗争の終点を予想する事ができなくなるだろう。

『アウトレイジ』は、『仁義なき戦い』を超えたヤクザ映画の一本である。

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